吾とか女の親兄弟に当る人々の為に種々《さま/″\》なことを為《し》て遣《や》つて居る――まあ、言はないものは、せめて尽して、それで心を慰めるのであらう。思へば人の知らない悲哀《かなしみ》を胸に湛へて居るのに相違ない。尤《もつと》も、自分は偶然なことからして、斯ういふ丑松の秘密を感得《かんづ》いた。しかも其はつい近頃のことで有ると言出した。『といふ訳で、』と銀之助は額へ手を当てゝ、『そこへ気が付いてから、瀬川君の為ることは悉皆《すつかり》読めるやうに成ました。どうも可笑《をか》しい/\と思つて見て居ましたツけ――そりやあもう、辻褄《つじつま》の合はないやうなことが沢山《たくさん》有つたものですから。』
『成程《なるほど》ねえ。あるひは左様いふことが有るかも知れない。』
 と言つて、校長は郡視学と顔を見合せた。

       (四)

 軈《やが》て銀之助は応接室を出て、復《ま》たもとの職員室へ来て見ると、丑松と文平の二人が他の教員に取囲《とりま》かれ乍ら頻《しきり》に大火鉢の側で言争つて居る。黙つて聞いて居る人々も、見れば、同じやうに身を入れて、あるものは立つて腕組したり、あるものは机に倚凭《よりかゝ》つて頬杖《ほゝづゑ》を突いたり、あるものは又たぐる/\室内を歩き廻つたりして、いづれも熱心に聞耳を立てゝ居る様子。のみならず、丑松の様子を窺《うかゞ》ひ澄まして、穿鑿《さぐり》を入れるやうな眼付したものもあれば、半信半疑らしい顔付の手合もある。銀之助は談話《はなし》の調子を聞いて、二人が一方ならず激昂して居ることを知つた。
『何を君等は議論してるんだ。』
 と銀之助は笑ひ乍ら尋ねた。其時、人々の背後《うしろ》に腰掛け、手帳を繰り繙《ひろ》げ、丑松や文平の肖顔《にがほ》を写生し始めたのは準教員であつた。
『今ね、』と準教員は銀之助の方を振向いて見ながら、『猪子先生のことで、大分やかましく成つて来たところさ。』と言つて、一寸鉛筆の尖端《さき》を舐《な》めて、復《ま》た微笑《ほゝゑ》み乍ら写生に取懸つた。
『なにも其様《そんな》にやかましいことぢや無いよ。』斯う文平は聞咎《きゝとが》めたのである。『奈何《どう》して瀬川君は彼《あ》の先生の書いたものを研究する気に成つたのか、其を僕は聞いて見たばかりだ。』
『しかし、勝野君の言ふことは僕に能《よ》く解らない。』丑松の眼は燃え輝
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