めた》い――』
『手が冷い? そんなら早く行つて炬燵《おこた》へあたれ。』
 斯《か》う言つて、凍つた手を握〆《にぎりしめ》ながら、細君はお末を奥の方へ連れて行つた。
 其時は地主も炉辺《ろばた》を離れた。真綿帽子を襟巻がはりにして、袖口と袖口とを鳥の羽翅《はがひ》のやうに掻合せ、半ば顔を埋《うづ》め、我と我身を抱き温め乍ら、庭に立つて音作兄弟の仕度するのを待つて居た。
『奈何《どう》でござんすなあ、籾《もみ》のこしらへ具合は。』
 と音作は地主の顔を眺める。地主の声は低くて、其返事が聞取れない位。軈《やが》て、白い手を出して籾を抄《すく》つて見た。一粒口の中へ入れて、掌上《てのひら》のをも眺《なが》め乍《なが》ら、
『空穀《しひな》が有るねえ。』
 と冷酷《ひやゝか》な調子で言ふ。音作は寂しさうに笑つて、
『空穀でも無いでやす――雀には食はれやしたが、しかし坊主(稲の名)が九分で、目は有りやすよ。まあ、一俵|造《こしら》へて掛けて見やせう。』
 六つばかりの新しい俵が其処へ持出された。音作は箕《み》の中へ籾を抄入《すくひい》れて、其を大きな円形の一斗桝へうつす。地主は『とぼ』(丸棒)を取つて桝の上を平に撫《な》で量《はか》つた。俵の中へは音作の弟が詰めた。尤《もつと》も弟は黙つて詰めて居たので、兄の方は焦躁《もどか》しがつて、『貴様これへ入れろ――声掛けなくちや御年貢のやうで無くて不可《いけない》。』と自分の手に持つ箕《み》を弟の方へ投げて遣つた。
『さあ、沢山《どつしり》入れろ――一わたりよ、二わたりよ。』
 と呼ぶ音作の声が起つた。一俵につき大桝で六斗づゝ、外に小桝で――娘が来て投げて置いて行つたので、三升づゝ、都合六斗三升の籾の俵が其処へ並んだ。
『六俵で内取に願ひやせう。』
 と音作は俵蓋《さんだはら》を掩《おほ》ひ冠せ乍ら言つた。地主は答へなかつた。目を細くして無言で考へて居るは、胸の中に十露盤《そろばん》を置いて見るらしい。何時《いつ》の間にか音作の弟が大きな秤《はかり》を持つて来た。一俵掛けて、兄弟してうんと力を入れた時は、二人とも顔が真紅《まつか》に成る。地主は衡《はかりざを》の平均《たひら》になつたのを見澄まして、錘《おもり》の糸を動かないやうに持添へ乍ら調べた。
『いくら有やす。』と音作は覗《のぞ》き込んで、『むゝ、出放題《ではうでえ》あるは―
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