がわざ/\磊落《らいらく》らしく装《よそほ》つて、剽軽《へうきん》なことを言つて、男のやうな声を出して笑ふのも、其為だらう。紅涙《なんだ》が克《よ》くお志保の顔を流れるのも、其為だらう。どうもをかしい/\と思つて居たことは、この敬之進の話で悉皆《すつかり》読めたのである。
長いこと二人は悄然《しよんぼり》として、互ひに無言の儘《まゝ》で相対《さしむかひ》に成つて居た。
第拾七章
(一)
勘定を済まして笹屋を出る時、始めて丑松は月給のうちを幾許《いくら》袂《たもと》に入れて持つて来たといふことに気が着いた。それは銀貨で五十銭ばかりと、外に五円|紙幣《さつ》一枚あつた。父の存命中は毎月|為替《かはせ》で送つて居たが、今は其を為《す》る必要も無いかはり、帰省の当時大分|費《つか》つた為に斯金《このかね》が大切のものに成つて居る、彼是《かれこれ》を考へると左様無暗には費はれない。しかし丑松の心は暗かつた。自分のことよりは敬之進の家族を憐むのが先で、兎《と》に角《かく》省吾の卒業する迄、月謝や何かは助けて遣《や》りたい――斯う考へるのも、畢竟《つまり》はお志保を思ふからであつた。
酔つて居る敬之進を家《うち》まで送り届けることにして、一緒に雪道を歩いて行つた。慄《ふる》へるやうな冷い風に吹かれて、寒威《さむさ》に抵抗《てむかひ》する力が全身に満ち溢《あふ》れると同時に、丑松はまた精神《こゝろ》の内部《なか》の方でもすこし勇気を回復した。並んで一緒に歩く敬之進は、と見ると――釣竿を忘れずに舁《かつ》いで来た程、其様《そんな》に酷《ひど》く酔つて居るとも思はれないが、しかし不規則な、覚束ない足許《あしもと》で、彼方《あつち》へよろ/\、是方《こつち》へよろ/\、どうかすると往来の雪の中へ倒れかゝりさうに成る。『あぶない、あぶない。』と丑松が言へば、敬之進は僅かに身を支へて、『ナニ、雪の中だ? 雪の中、結構――下手な畳の上よりも、結句|是方《このはう》が気楽だからね。』これには丑松も持余して了《しま》つて、若《も》し是雪《このゆき》の中で知らずに寝て居たら奈何《どう》するだらう、斯う思ひやつて身を震はせた。斯の老朽な教育者の末路、彼の不幸なお志保の身の上――まあ、丑松は敬之進親子のことばかり思ひつゞけ乍ら随《つ》いて行つた。
敬之進の住居《すまひ
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