な笑声が起つた。炉《ろ》の火も燃え上つた。丑松は炉辺《ろばた》に満ち溢《あふ》れる『ぼや』の烟のにほひを嗅《か》ぎ乍《なが》ら、そこへ主婦が持出した胡桃足《くるみあし》の膳を引寄せて、黙つて飲んだり食つたりして居ると、丁度出て行く行商と摺違ひに釣の道具を持つて入つて来た男がある。
『よう、めづらしい御客様が来てますね。』
 と言ひ乍ら、釣竿を柱にたてかけたのは敬之進であつた。
『風間さん、釣ですか。』斯《か》う丑松は声を掛ける。
『いや、どうも、寒いの寒くないのツて。』と敬之進は丑松と相対《さしむかひ》に座を占めて、『到底《とても》川端で辛棒が出来ないから、廃《や》めて帰つて来た。』
『ちつたあ釣れましたかね。』と聞いて見る。
『獲物《えもの》無しサ。』と敬之進は舌を出して見せて、『朝から寒い思をして、一匹も釣れないでは君、遣切《やりき》れないぢやないか。』
 其調子がいかにも可笑《をか》しかつた。盛んな笑声が百姓や橇曳《そりひき》の間に起つた。
『不取敢《とりあへず》、一つ差上げませう。』と丑松は盃《さかづき》の酒を飲乾して薦《すゝ》める。
『へえ、我輩に呉れるのかね。』と敬之進は目を円《まる》くして、『こりやあ驚いた。君から盃を貰はうとは思はなかつた――道理で今日は釣れない訳だよ。』と思はず流れ落ちる涎《よだれ》を拭つたのである。
 間も無く酒瓶《てうし》の熱いのが来た。敬之進は寒さと酒慾とで身を震はせ乍ら、さも/\甘《うま》さうに地酒の香を嗅いで見て、
『しばらく君には逢《あ》はなかつたやうな気がするねえ。我輩も君、学校を休《や》めてから別に是《これ》といふ用が無いもんだから、斯様《こん》な釣なぞを始めて――しかも、拠《よんどころ》なしに。』
『何ですか、斯の雪の中で釣れるんですか。』と丑松は箸を休《や》めて対手の顔を眺めた。
『素人《しろうと》は其だから困る。尤も我輩だつて素人だがね。はゝゝゝゝ。まあ商売人に言はせると、冬はまた冬で、人の知らないところに面白味がある。ナニ、君、風さへ無けりや、左様《さう》思つた程でも無いよ。』と言つて、敬之進は一口飲んで、『然し、瀬川君、考へて見て呉れ給へ。何が辛いと言つたつて、用が無くて生きて居るほど世の中に辛いことは無いね。家内やなんかが※[#「足へん+昔」、第4水準2−89−36]々《せつせ》と働いて居る側で、自分ばか
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