脱いで入つて、例の風呂敷包を何気なく取出した。『すこしばかり書籍《ほん》を持つて来ました――奈何《どう》でせう、是《これ》を引取つて頂きたいのですが。』と其を言へば、亭主は直に丑松の顔色を読んで、商人《あきんど》らしく笑つて、軈《やが》て膝を進め乍ら風呂敷包を手前へ引寄せた。
『ナニ、幾許《いくら》でも好いんですから――』
 と丑松は添加《つけた》して言つた。
 亭主は風呂敷包を解《ほど》いて、一冊々々書物の表紙を調べた揚句、それを二通りに分けて見た。語学の本は本で一通り。兎も角も其丈《それだけ》は丁寧に内部《なかみ》を開けて見て、それから蓮太郎の著したものは無造作に一方へ積重ねた。
『何程《いかほど》ばかりで是は御譲りに成る御積りなんですか。』と亭主は丑松の顔を眺めて、さも持余したやうに笑つた。
『まあ、貴方の方で思つたところを附けて見て下さい。』
『どうも是節は不景気でして、一向に斯《か》ういふものが捌《は》けやせん。御引取り申しても好うごはすが、しかし金高があまり些少《いさゝか》で。実は申上げるにしやしても、是方《こちら》の英語の方だけの御直段《おねだん》で、新刊物の方はほんの御愛嬌《ごあいけう》――』と言つて、亭主は考へて、『こりや御持帰りに成りやした方が御為かも知れやせん。』
『折角《せつかく》持つて来たものです――まあ、左様言はずに、引取れるものなら引取つて下さい。』
『あまり些少《いさゝか》ですが、好うごはすか。そんなら、別々に申上げやせうか。それとも籠《こ》めて申上げやせうか。』
『籠めて言つて見て下さい。』
『奈何《いかゞ》でせう、精一杯なところを申上げて、五十五銭。へゝゝゝゝ。それで宜《よろ》しかつたら御引取り申して置きやす。』
『五十五銭?』
 と丑松は寂しさうに笑つた。
 もとより何程《いくら》でも好いから引取つて貰ふ気。直に話は纏《まとま》つた。あゝ書物ばかりは売るもので無いと、予《かね》て丑松も思はないでは無いが、然しこゝへ持つて来たのは特別の事情がある。やがて自分の宿処と姓名とを先方《さき》の帳面へ認《したゝ》めてやつて、五十五銭を受取つた。念の為、蓮太郎の著したものだけを開けて見て、消して持つて来た瀬川といふ認印《みとめ》のところを確めた。中に一冊、忘れて消して無いのがあつた。『あ――ちよつと、筆を貸して呉れませんか。』斯う言つて、借
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