稻の穗は黄にみのりたり
 草鞋とく結《ゆ》へ鎌も執れ
 風に嘶く馬もやれ

あゝ綾絹につゝまれて
爲すよしも無く寢ぬるより
薄き襤褸《つゞれ》はまとふとも
活きて起つこそをかしけれ

匍匐《はらば》ふ蟲の賤が身に
羽翼《つばさ》を惠むものや何
酒か涙か歎息《ためいき》か
迷か夢か皆なあらず

 野に出でよ野に出でよ
 稻の穗は黄にみのりたり
 草鞋とく結《ゆ》へ鎌も執れ
 風に嘶く馬もやれ

さながら土に繋がるゝ
重き鎖を解きいでて
いとど暗きに住む鬼の
笞《しもと》の責をいでむ時

口には朝の息を吹き
骨には若き血を纏ひ
胸に驕慢手に力
霜葉を履《ふ》みてとく來れ

 野に出でよ野に出でよ
 稻の穗は黄にみのりたり
 草鞋とく結《ゆ》へ鎌も執れ
 風に嘶く馬もやれ

 二 晝

誰か知るべき秋の葉の
落ちて樹の根の埋《うづ》むとき
重く聲無き石の下
清水溢れて流るとは

誰か知るべき小山田《をやまだ》の
稻穗のたわに實るとき
花なく香なき賤《しづ》の胸
生命《いのち》踊りて響くとは

 共に來て蒔き來て植ゑし
 田の面《も》に秋の風落ちて
 野邊の琥珀《こはく》を鳴らすかな
 刈
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