絶えてさびしくなりにけり
ひゞき空しき天籟は
いづくにかある
九つの
藝術《たくみ》の神のかんづまり
かんさびませしとつくにの
阿典《あぜん》の宮殿《みや》の玉垣も
今はうつろひかはりけり
草の緑はグリイスの
牧場《まきば》を今も覆ふとも
みやびつくせしいにしへの
笛のしらべはいづくぞや
かのバビロンの水青く
千歳《ちとせ》の色をうつすとも
柳に懸けしいにしへの
琴は空しく流れけり
げにや大雅《みやび》をこひ慕ふ
君にしあれば君がため
藝術《たくみ》の天《そら》に懸る日も
時を導く星影も
いづれ行くへを照らしつゝ
深き光を示すらむ
さらば名殘はつきずとも
袂を別つ夕まぐれ
見よ影深き欄干《おばしま》に
煙をふくむ藤の花
北行く鴈は大空《おほそら》の
霞に沈み鳴き歸り
彩《あや》なす雲も愁《うれ》ひつゝ
君を送るに似たりけり
あゝいつかまた相逢うて
もとの契りをあたゝめむ
梅も櫻も散りはてて
すでに柳はふかみどり
人はあかねど行く春を
いつまでこゝにとゞむべき
われに惜むな家づとの
一枝の筆の花の色香を
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うぐひす
さばれ空《むな》しきさへづりは
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