び
葡萄の酒の濃紫いろこそ似たれ荒波《あらなみ》の
波のみだれて狂ひよるひゞきの高くすさまじや
翼《つばさ》の骨をそばだててすがたをつゝむ若鷲の
身は覆羽《おおひば》やさごろもや腋羽《ほろば》のうちにかくせども
見よ老鷲はそこ白く赤すぢたてる大爪に
岩をつかみて中高き頭《かしら》靜かにながめけり
げに白髮《しらかみ》のものゝふの劍《つるぎ》の霜を拂ふごと
唐藍《からあゐ》の花ますらをのかの青雲《あをくも》を慕ふごと
黄葉《もみぢ》の影に啼く鹿の谷間《たにま》の水に喘《あへ》ぐごと
眼《まなこ》鋭く老鷲は雲の行くへをのぞむかな
わが若鷲はうちひそみわが老鷲はたちあがり
小河に映《うつ》る明星の澄めるに似たる眼《まなこ》して
黒雲《くろくも》の行く大空《おほぞら》のかなたにむかひうめきしが
いづれこゝろのおくれたり高し烈《はげ》しとさだむべき
わが若鷲は琴柱尾《ことぢを》や胸に文《あや》なす鷸《しぎ》の斑《ふ》の
承毛《うけげ》は白く柔和《やはらか》に谷の落《おと》し羽《は》飛ぶときも
湧きて流るゝ眞清水《ましみづ》の水に翼《つばさ》をうちひたし
このめる蔭は行く春のなごりにさける
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