ぐひすの
鳥のしらべをうたへかし

ねむげの春よさめよ春
ふゆのこほりにむすぼれし
ふるきゆめぢをさめいでて
やなぎのいとのみだれがみ
うめのはなぐしさしそへて
びんのみだれをかきあげよ

ねむげの春よさめよ春
あゆめばたにの早《さ》わらびの
したもえいそぐ汝《な》があしを
たかくもあげよあゆめ春
たえなるはるのいきを吹き
こぞめの梅の香ににほへ


 五 うてや鼓

うてや鼓の春の音
雪にうもるゝ冬の日の
かなしき夢はとざされて
世は春の日とかはりけり

ひけばこぞめの春霞
かすみの幕をひきとぢて
花と花とをぬふ絲は
けさもえいでしあをやなぎ

霞のまくをひきあけて
春をうかがふことなかれ
はなさきにほふ蔭をこそ
春の臺《うてな》といふべけれ

小蝶よ花にたはふれて
優しき夢をみては舞ひ
醉うて羽袖もひら/\と
はるの姿をまひねかし

緑のはねのうぐひすよ
梅の花笠ぬひそへて
ゆめ靜なるはるの日の
しらべを高く歌へかし
[#改ページ]

 明星


浮べる雲と身をなして
あしたの空に出でざれば
などしるらめや明星の
光の色のくれなゐを

朝の潮《うしほ》と身をなして
流れて海に出でざ
前へ 次へ
全100ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング