を告げよかし
谷間に殘る白雪よ
葬りかくせ去歳《こぞ》の冬
春はきぬ
春はきぬ
さみしくさむくことばなく
まづしくくらくひかりなく
みにくくおもくちからなく
かなしき冬よ行きねかし
春はきぬ
春はきぬ
淺みどりなる新草《にひぐさ》よ
とほき野面《のもせ》を畫《ゑが》けかし
さきては紅《あか》き春花《はるばな》よ
樹々《きゞ》の梢を染めよかし
春はきぬ
春はきぬ
霞よ雲よ動《ゆる》ぎいで
氷れる空をあたゝめよ
花の香《か》おくる春風よ
眠れる山を吹きさませ
春はきぬ
春はきぬ
春をよせくる朝汐《あさじほ》よ
蘆の枯葉《かれは》を洗ひ去れ
霞に醉へる雛鶴よ
若きあしたの空に飛べ
春はきぬ
春はきぬ
うれひの芹の根は絶えて
氷れるなみだ今いづこ
つもれる雪の消えうせて
けふの若菜と萌えよかし
四 眠れる春よ
ねむれる春ようらわかき
かたちをかくすことなかれ
たれこめてのみけふの日を
なべてのひとのすぐすまに
さめての春のすがたこそ
また夢のまの風情なれ
ねむげの春よさめよ春
さかしきひとのみざるまに
若紫の朝霞
かすみの袖をみにまとへ
はつねうれしきう
前へ
次へ
全100ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング