詞《ことば》あり
そこに聲あり命《いのち》あり
そこに名ありとうたひつゝ
みそらにあがり地にかけり
のこんの星ともろともに
光《ひかり》のうちに朝ぞ隱るゝ
暮
たれか聞くらむ暮の聲
霞の翼《つばさ》雲の帶
煙の衣《ころも》露の袖
つかれてなやむあらそひを
闇のかなたに投《な》げ入れて
夜《よる》の使《つかひ》の蝙蝠の
飛ぶ間《ま》も聲のをやみなく
こゝに影あり迷《まよひ》あり
こゝに夢あり眠《ねむり》あり
こゝに闇あり休息《やすみ》あり
こゝに永きあり遠きあり
こゝに死《し》ありとうたひつゝ
草木《くさき》にいこひ野にあゆみ
かなたに落つる日とともに
色なき闇に暮ぞ隱るゝ
[#改ページ]
松島瑞巖寺に遊びて
舟路《ふなぢ》も遠し瑞巖寺《ずゐがんじ》
冬逍遙《ふゆぜうえう》のこゝろなく
古き扉に身をよせて
飛騨の名匠《たくみ》の浮彫《うきぼり》の
葡萄のかげにきて見れば
菩提の寺の冬の日に
刀《かたな》悲《かな》しみ鑿《のみ》愁《うれ》ふ
ほられて薄き葡萄葉の
影にかくるゝ栗鼠《きねずみ》よ
姿ばかりは隱すとも
かくすよしなし鑿《のみ》の香《か》は
うしほにひゞく磯寺の
前へ
次へ
全100ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング