ぐひすの
鳥のしらべをうたへかし
ねむげの春よさめよ春
ふゆのこほりにむすぼれし
ふるきゆめぢをさめいでて
やなぎのいとのみだれがみ
うめのはなぐしさしそへて
びんのみだれをかきあげよ
ねむげの春よさめよ春
あゆめばたにの早《さ》わらびの
したもえいそぐ汝《な》があしを
たかくもあげよあゆめ春
たえなるはるのいきを吹き
こぞめの梅の香ににほへ
五 うてや鼓
うてや鼓の春の音
雪にうもるゝ冬の日の
かなしき夢はとざされて
世は春の日とかはりけり
ひけばこぞめの春霞
かすみの幕をひきとぢて
花と花とをぬふ絲は
けさもえいでしあをやなぎ
霞のまくをひきあけて
春をうかがふことなかれ
はなさきにほふ蔭をこそ
春の臺《うてな》といふべけれ
小蝶よ花にたはふれて
優しき夢をみては舞ひ
醉うて羽袖もひら/\と
はるの姿をまひねかし
緑のはねのうぐひすよ
梅の花笠ぬひそへて
ゆめ靜なるはるの日の
しらべを高く歌へかし
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明星
浮べる雲と身をなして
あしたの空に出でざれば
などしるらめや明星の
光の色のくれなゐを
朝の潮《うしほ》と身をなして
流れて海に出でざれば
などしるらめや明星の
清《す》みて哀《かな》しききらめきを
なにかこひしき曉星《あかぼし》の
空《むな》しき天《あま》の戸を出でて
深くも遠きほとりより
人の世近く來《きた》るとは
潮《うしほ》の朝のあさみどり
水底《みなそこ》深き白石を
星の光に透《す》かし見て
朝《あさ》の齡《よはひ》を數ふべし
野の鳥ぞ啼く山河《やまかは》も
ゆふべの夢をさめいでて
細く棚引くしのゝめの
姿をうつす朝ぼらけ
小夜《さよ》には小夜のしらべあり
朝には朝の音《ね》もあれど
星の光の絲《いと》の緒《を》に
あしたの琴は靜《しづか》なり
まだうら若き朝の空
きらめきわたる星のうち
いちいと若き光をば
名《なづ》けましかば明星と
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潮音
わきてながるゝ
やほじほの
そこにいざよふ
うみの琴
しらべもふかし
もゝかはの
よろづのなみを
よびあつめ
ときみちくれば
うらゝかに
とほくきこゆる
はるのしほのね
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おえふ
處女《をとめ》ぞ經《へ》ぬるおほかたの
われは夢路《ゆめぢ》を越えてけり
わが世の坂にふりかへり
いく山河《やまかは》をながむれば
水
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