んこ別れの昔を感ずることは出來ても、それを説き明すといふことは出來ない。しかし、『あんこ』といふことは、わたしの郷里の方でも言ふ。木曾では女馬をあんこ馬とも言ふ。あんこ別れはしばらく馴染になつた土地の女子に別れるの意味であらう。
わたしたちが澁川から伊香保に着いたのは、晴れたり曇つたりするやうな日の午後で、時に薄い泄れ日が谷の窪地に射して來たり、時に雷雨がやつて來たりした。輕井澤あたりのやうな空氣の乾く高原地へ行つたともちがひ、わたしたちは山の中腹の位置に身を置いて、思ふさま、うち濕つた山氣を呼吸することが出來た。一方に空がひらけて、旅館にゐながらでも、遠い山々を望むことの出來るやうなところだ。秋はさぞかしと思はれる。
こゝへ來て聽きつける小鳥の聲も、わたしには自分の郷里を思ひ出させる。あの木曾山に多い、杉、檜、それから栗の林なぞは、この伊香保の里にもある。こゝは自分の郷里ほど深い谷間でもなく、又、あれほど大きな森林地帶でもないが、そのかはり自分の郷里にはないものがある。熱すぎるくらゐであるが、しかし豐富な山の湯がある。
伊香保の里が水に乏しいことも、また自分の郷里を思ひ出
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