クいろ/\なことを書き、親戚から送つて貰つた桃の葉で僅かに汗疹《あせも》を凌いだこと、遲くまで戸も閉められない眠りがたい夜の多かつたこと、覺えて置かうと思ふこともかなり多いと書いて見た。この稀な大暑を忘れないため、流しつゞけた熱い汗を縁側の前の秋草にでも寄せて、寢言なりと書きつけようと思ふ心持をもその時に引き出された。ことしのやうな年もめづらしい。わたしの住む町のあたりでは秋をも待たないで枯れて行つた草も多い。坂の降り口にある乾き切つた石段の横手の芝なぞもそれだ。日頃懇意な植木屋が呉れた根も淺い鉢植の七草は、これもとつくに死んで行つた仲間だ。この旱天を凌いで、とにもかくにも生きつゞけて來た一二の秋草の姿がわたしの眼にある。多くの山家育ちの人達と同じやうに、わたしも草木なしにはゐられない方だから、これまでいろ/\なものを植ゑるには植ゑて見たが、日當りはわるく、風通しもよくなく、おまけに谷の底のやうなこの町中では、どの草も思ふやうに生長しない。さういふ中で、わたしの好きな※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]《かをりぐさ》だけは殘つた。わたしの家の庭で見せたいものは、と言つた
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