スつてさうした次男三男の方に一段の不便《ふびん》も増さう。それを思へば、一生親の胸を傷め、かた/″\不幸なものはその數を知らない。たとへ實體《じつてい》に勤めたところで、彼の如く末子に生れたものは、成身しても七里役(飛脚)か、馬追、駕籠かきと極まつた身分の時代にあつて、兎にもかくにも彼は例外の仕合せを兩親の側に見出した。しばらくもその冥加《みやうが》を彼が忘れたら、生れ得たまゝの馬追か駕籠かきで生涯を終るか、それも恥づかしくなれば遠國へでも走り、非人乞食の仲間入りより外なかつたであらう。そこまで源十郎は覺書に書いて來て、更に『その方ども』といふ昔風な言葉でその子に呼びかけ、お前達はその末子の自分の子供で、言はゞ末の末のものである。東西を知る頃より草刈奉公にも遣はすべき筈のところ、隱居の御蔭で、われらが身分にも過ぎた成し下され方といふものである。冥加のほども恐ろしい。自分としてはしばらくもそのことを忘れないが、元來お前達は得生もすくなしのくせに、口悧巧で人に出過ぎ、殊に馬籠は人少なのところゆゑ、われら如きのものまでが宿方の役人を勤めるところから――尤も、自分としては、日々わが身の『俗生』
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