曾山の背伐りといふ言葉は、序の章に出て來るし、その他の場處にも書いてあるので、ある人から背伐りの嚴禁を犯すとはどういふ意味かと、その解釋を求められたこともあつた。伐採を禁じられてあつた檜木なぞの一部を、立木のまゝ削ぎ取り、樹木の皮だけをそつくりあてがつて置いて、山中見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りの折の役人の眼をかすめるのをいふ。

 街道筋の人がよく使用する店座敷といふ言葉のことは、草稿の附記の中にも書いて置いたと覺えてゐる。店座敷とは表座敷の意。店といふ言葉は商家にのみ用ゐられたのではなく、單に表といふ意味で、一般の家庭にも用ゐられた時代があつたと考へていゝやうだ。あの多くの旅客を相手にして朝夕を送つた人達が街道に接した表座敷を店座敷と呼び、問屋場につゞく會所の内の宿役人の詰所にも、本陣の屋根の下にも、その名のあつたことは、いかにも往時の宿場にふさはしい氣がする。

 日本評論社の主催でわたしの『夜明け前』についての座談會があつた晩、わたしは古い記録なぞをしらべてゐる中にふと見つけた言葉のことを言ひ出し、當時の流行語として昔の人が特に使つたと思はれるやうな言葉のあるこ
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