ヨ持ち歸らうとする時は、猶更つらい。好きなものは兎角隱したい。

     破屋
[#天から10字下げ]散文にて譯し試みたる楊岐の詩

 われ住めば、いつしか壁もまばらに、滿床こと/″\くめづらしき雪の珠を散らしぬ。時には頸を縮めて暗き涙も飮みたれど、古人が樹下のすみかを憶ひては心をひるがへしたり。

     文章を學ぶもののために

 年若くして文章の道に出發するほどのものは、先づ自分の持つものを粗末にしないことこそ願はしい。言葉の感覺には敏《さと》くありたい。その感覺に鈍くては文章の道には到り得ない。失敗を恐れて、試みることを躊躇するやうなものも、またこの道を行き盡せない。われら幼少の頃には、食物なぞにも好き嫌ひが多かつたが、追々成人するにしたがつて何でも食へるやうになり、血氣さかんに食慾も進む年頃に達しては何を食つて見てもうまく、おほよその食物を選り好みするといふこともなかつた。さういふところを通り越してからは、むしろ食を減ずるやうになつたが、そのかはり食物の味は増して來た。さかんに多く食ふといふよりは、精しく味はつて食ふことの方に變つて來た。文章とてもその通り、さう若いうちか
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