足袋
島崎藤村
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)比佐《ひさ》さん
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)仙台|名影町《なかげまち》の
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「比佐《ひさ》さんも好いけれど、アスが太過ぎる……」
仙台|名影町《なかげまち》の吉田屋という旅人宿兼下宿の奥二階で、そこからある学校へ通っている年の若い教師の客をつかまえて、頬辺《ほっぺた》の紅い宿の娘がそんなことを言って笑った。シとスと取違えた訛《なまり》のある仙台弁で。
この田舎娘の調戯《からかい》半分に言ったことは比佐を喫驚《びっくり》させた。彼は自分の足に気がついた……堅く飛出した「つとわら」の肉に気がついた……怒ったような青筋に気がついた……彼の二の腕のあたりはまだまだ繊細《かぼそ》い、生白いもので、これから漸《ようや》く肉も着こうというところで有ったが、その身体の割合には、足だけはまるで別の物でも継ぎ合わせたように太く頑固《がんこ》に発達していた……彼は真実《ほんとう》に喫驚した。
散々歩いた足だ。一年あまりも心の暗い旅をつづけて、諸国の町々や、港や、海岸や、それから知らない山道な
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