ゥ附内《みつけうち》にある教会堂に行われた弔いの儀式に列《つらな》った時のことだ。黒い布をかけ、二つの花輪を飾った寝棺が説教台の下に置いてあった。その中には岸本の旧い学友で、耶蘇《やそ》信徒で、二十一年ばかりも前に一緒に同じ学校を卒業した男の遺骸《いがい》が納めてあった。肺病で亡くなった学友を弔うための儀式は生前その人が来てよく腰掛けた教会堂の内で至極質素に行われた。やがて寝棺は中央の腰掛椅子の間を通り、壁に添うて教会堂の出入口の方へ運ばれて来た。亡くなった人のためには極く若い学生時代に教を説いて聞かせるからその日の弔いの説教までして面倒を見た牧師をはじめ、親戚《しんせき》友人などがその寝棺の前後左右を持ち支《ささ》えながら。
岸本は灰色な壁のところに立って、その光景を眺《なが》めていた。その日は岸本の外に、足立《あだち》、菅《すげ》の二人も弔いにやって来ていた。三人とも亡くなった人の同窓の友だ。
「吾儕《われわれ》の仲間はこれだけかい」
と菅は言って、同じ卒業生仲間を探《さが》すような眼付をした。
「誰かまだ見えそうなものだ」
と足立も言った。
会葬のために集まった人達は思い
前へ
次へ
全753ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング