ノちゃんは。懐《ふところ》へ手を入れたりなんかして」と節子は母親の懐でも探すようにする子供の顔を見て言った。「そんなことすると、もう一緒にねんねして進《あ》げません」
「温順《おとな》しくして、おねんねするんですよ」と婆やも子供の枕頭《まくらもと》に坐って言った。
「ほんとに繁ちゃんは子供のようじゃないのね」と節子は自分の懐を掻合《かきあわ》せるようにした。「だからあなたは大人と子供の合の子だなんて言われるんですよ――コドナだなんて」
「コドナには困ったねえ」と婆やは田舎訛《いなかなまり》を出して笑った。「あれ、復た愚図る。誰もあなたのことを笑ったんじゃ有りませんよ。今、今、皆なであなたのことを褒《ほ》めてるじゃ有りませんか。ほんとにまあ、私が上った頃から見ると繁ちゃんは大変に温順しくお成りなすったッて――ネ」
「さあ、おねんねなさいね」と節子は寝かかっている子供の短い髪を撫《な》でてやった。
「ああ、もう寝てしまったのか」と岸本は長火鉢の側に居て、子供の寝顔の方を覗《のぞ》くようにした。「ほんとに子供は早いものだね。罪の無いものだね……この児はなかなか手数が要《かか》る。どうして、繁
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