ナ暮して来たというような人を数えることも出来た。こうした人達は、よし居たにしても、今まで岸本には気がつかなかった。独りで居る女の数は、あるいは独りで居る男の数よりも多かろうか、とさえ岸本には思われた。
四
姪《めい》の節子は家の方で岸本を待っていた。河岸から岸本の住む町までの間には、横町一つ隔てて幾つかの狭い路地があった。岸本はどうにでも近道を通って家の方へ帰って行くことが出来た。
「子供は?」
一寸《ちょっと》そこいらを歩き廻って戻って来た時でも、それを家のものに尋ねるのが岸本の癖のように成っていた。
彼は節子の口から、兄の方の子供が友達に誘われて町へ遊びに行ったとか、弟の方が向いの家で遊んでいるとか、それを聞くまでは安心しなかった。
節子が岸本の家へ手伝いに来たのは学校を卒業してしばらく経《た》った時からで、丁度その頃は彼女の姉の輝子も岸本の許《ところ》に来ていた。姉妹《きょうだい》二人は一年ばかりも一緒に岸本の子供の世話をして暮した。その夏|他《よそ》へ嫁《かたづ》いて行く輝子を送ってからは、岸本は節子一人を頼りにして、使っている婆やと共にまだ幼い子供
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