ら》にある月《つき》が満《み》ちたり欠《か》けたりする度《たび》に、それと呼吸《こきゅう》を合《あ》わせるような、奇蹟《きせき》でない奇蹟《きせき》は、まだ袖子《そでこ》にはよく呑《の》みこめなかった。それが人《ひと》の言《い》うように規則的《きそくてき》に溢《あふ》れて来《こ》ようとは、信《しん》じられもしなかった。故《ゆえ》もない不安《ふあん》はまだ続《つづ》いていて、絶《た》えず彼女《かのじょ》を脅《おびや》かした。袖子《そでこ》は、その心配《しんぱい》から、子供《こども》と大人《おとな》の二つの世界《せかい》の途中《とちゅう》の道端《みちばた》に息《いき》づき震《ふる》えていた。
 子供《こども》の好《す》きなお初《はつ》は相変《あいか》わらず近所《きんじょ》の家《いえ》から金之助《きんのすけ》さんを抱《だ》いて来《き》た。頑是《がんぜ》ない子供《こども》は、以前《いぜん》にもまさる可愛《かわい》げな表情《ひょうじょう》を見《み》せて、袖子《そでこ》の肩《かた》にすがったり、その後《あと》を追《お》ったりした。
「ちゃあちゃん。」
 親《した》しげに呼《よ》ぶ金之助《きんのすけ
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