のとれたもの、顔《かお》が汚《よご》れ鼻《はな》が欠《か》けするうちにオバケのように気味悪《きみわる》くなって捨《す》ててしまったもの――袖子《そでこ》の古《ふる》い人形《にんぎょう》にもいろいろあった。その中《なか》でも、父《とう》さんに連《つ》れられて震災前《しんさいまえ》の丸善《まるぜん》へ行《い》った時《とき》に買《か》って貰《もら》って来《き》た人形《にんぎょう》は、一番《いちばん》長《なが》くあった。あれは独逸《ドイツ》の方《ほう》から新荷《しんに》が着《つ》いたばかりだという種々《いろいろ》な玩具《おもちゃ》と一緒《いっしょ》に、あの丸善《まるぜん》の二|階《かい》に並《なら》べてあったもので、異国《いこく》の子供《こども》の風俗《なり》ながらに愛《あい》らしく、格安《かくやす》で、しかも丈夫《じょうぶ》に出来《でき》ていた。茶色《ちゃいろ》な髪《かみ》をかぶったような男《おとこ》の児《こ》の人形《にんぎょう》で、それを寝《ね》かせば眼《め》をつぶり、起《お》こせばぱっちりと可愛《かわい》い眼《め》を見開《みひら》いた。袖子《そでこ》があの人形《にんぎょう》に話《はな》し
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