胡麻塩《ごましお》頭の父と十四五ばかりに成る子とが互に長い槌《つち》を振上げて籾《もみ》を打った。その音がトントンと地に響いて、白い土埃《つちほこり》が立ち上った。母は手拭を冠り、手甲《てっこう》を着けて、稲の穂をこいては前にある箕《み》の中へ落していた。その傍《かたわら》には、父子《おやこ》の叩いた籾を篩《ふるい》にすくい入れて、腰を曲めながら働いている、黒い日に焼けた顔付の女もあった。それから赤い襷掛《たすきがけ》に紺足袋穿という風俗《なり》で、籾の入った箕を頭の上に載せ、風に向ってすこしずつ振い落すと、その度に粃《しいな》と塵埃《ほこり》との混り合った黄な煙を送る女もあった。
日が短いから、皆な話もしないで、塵埃《ほこり》だらけに成って働いた。岡の向うには、稲田や桑畠を隔てて、夫婦して笠を冠って働いているのがある。殊にその女房が箕を高く差揚げ風に立てているのが見える。風は身に染みて、冷々《ひやひや》として来た。私の眼前《めのまえ》に働いていた男の子は稲村に預けて置いた袖なし半天を着た。母も上着《うわっぱり》の塵埃《ほこり》を払って着た。何となく私も身体がゾクゾクして来たから、尻
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