て、私達も暑さを厭はず旅をつゞけて來た。益田までの途中、細い藺草《ゐぐさ》を刈り乾した畠なぞを汽車の窓から見て來ることすら、私達にはめづらしかつたのである。こゝはいはゆる石見表《いはみおもて》の産地であるのだ。益田の宿について、町を貫く益田川の流れに臨んだ裏二階に足を休めた時は、兎にも角にも石見の空の見えるところまで無事にやつて來たことを思つた。松江の宿の方では、朝に晩に移り動く水の光を見て來た後であつたから、ちやうど私達は湖水の眺望のある南向きの部屋から、岡の見える北向きの部屋にでも移つて來たやうに感じた。何となく旅の心も落ちついた。
土地の人達は、よくそれでもこんな遠いところまで訪ねて來たといつて、私達親子の着いたのをよろこび迎へてくれた。益田の驛長龜井君、町長田中君、いづれも私には初對面の人達ばかりだ。私はこゝで、故島村抱月君の從兄弟《いとこ》にあたるといふ人にも逢つた。私はまた大谷君のやうな思ひがけない知己がこの土地にあることを知つた。
「益田までお出掛けはあるまいと思つてゐましたよ。」
さう大谷君はいつて、出來るだけの案内をしようと約束してくれた。
土地の人達の心づくし
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