じ學窓の縁故から、私なぞから見れば、先輩に當る人が、土地の話を持つてわざ/\逢ひに來てくれたといふこともなつかしい。その時は太田君も一緒で、湖水から吹き入る風の涼しいところで話した。四方山の話の末に、これから私達が向はうとする石見《いはみ》地方のことが出た。そこには人麿の遺蹟のあることなぞから、あの昔のすぐれた歌人も役目としては、せい/″\國守か郡守ぐらゐのところであつたらう、そんな話が出た。客もなか/\話ずきな人で、そのうちに鋭い鋒先を太田君の方にまで向けて、「太田君も商業會議所の書記長ぐらゐに止めて、それ以上の榮達は望まない方がようござんすぜ。昔から高位高官に登つたやうな人に、そんなにおもしろい人も見當りませんぜ。」
こんな話も旅らしい。しばらく私の心は書生の昔に歸つて行つた。その晩は客で取り込んだ。古川君を送つた後には、その日東京から着いたといふ畫家の小山周次君を迎へた。この小山君は小諸出身で、私とは舊い馴染だ。同君は大社まで私達と同道しようといつて、翌日の朝を約束して別れて行つた。四日ばかりの滯在は短かつたけれども、しかし私達はこの松江の宿に來て、直入《ちよくにふ》の蟹の額な
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