たのに、新築中のものがすつかり出來上つたら百軒にも上るであらうと聞く。停車場まで私達を出迎へに來てくれた宿の若主人からその話を聞いて、よくそれでもこんなに町の復興がはかどつたものだと私がいつて見たら、
「みんな一生懸命になりましたからね。この節はすこしだれて來ましたが、一頃の町の人達の意氣込といふものは、それはすさまじいものでしたよ。これまでに家のそろつたのも、そのおかげなんですね。」
 と若主人は私にいつて見せた。
 一時は全滅と傳へられたこの町が、震災當時の火煙につゝまれた光景も思ひやられる。河へはいつたものは助かつて、山へ駈け登つたものの多くは燒け死んだ。傾斜を走る火は人よりも速かつたといふ。宿の二階から望まれる裏山はそれらの人達が生命がけで逃れようとした跡かと見えておそろしい。そこには燒け殘つた樹木がまだそのまゝにあつて、芽も吹かずに、多くは立ち枯れとなつてゐるのも物すごく思はれた。
 それにしても、私達が汽車の窓から見あきるほど見て來た丹波、丹後あたりの山道の長ければ長かつただけ、震災後一年ぐらゐしかならないこの復興最中の城崎に來て、激しい暑さと疲勞とを忘れさせるやうな樂しい
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