ん
二
しづかにてらせる
月のひかりの
などか絶間なく
ものおもはする
さやけきそのかげ
こゑはなくとも
みるひとの胸に
忍び入るなり
なさけは説《と》くとも
なさけをしらぬ
うきよのほかにも
朽《く》ちゆくわがみ
あかさぬおもひと
この月かげと
いづれか声なき
いづれかなしき
強敵
一つの花に蝶《ちょう》と蜘蛛《くも》
小蜘蛛は花を守《まも》り顔
小蝶は花に酔ひ顔に
舞へども/\すべぞなき
花は小蜘蛛のためならば
小蝶の舞《まひ》をいかにせむ
花は小蝶のためならば
小蜘蛛の糸をいかにせむ
やがて一つの花散りて
小蜘蛛はそこに眠れども
羽翼《つばさ》も軽き小蝶こそ
いづこともなくうせにけれ
別離
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人妻をしたへる男の山に登り其
女の家を望み見てうたへるうた
[#ここで字下げ終わり]
誰《たれ》かとゞめん旅人《たびびと》の
あすは雲間《くもま》に隠るゝを
誰か聞くらん旅人の
あすは別れと告げましを
清《きよ》き恋とや片《かた》し貝《がひ》
われのみものを思ふより
恋はあふれて濁《にご》るとも
君に涙をかけましを
人妻《ひとづま》恋ふる悲しさを
君がなさけに知りもせば
せめてはわれを罪人《つみびと》と
呼びたまふこそうれしけれ
あやめもしらぬ憂《う》しや身は
くるしきこひの牢獄《ひとや》より
罪の鞭責《しもと》をのがれいで
こひて死なんと思ふなり
誰《たれ》かは花をたづねざる
誰かは色彩《いろ》に迷はざる
誰かは前にさける見て
花を摘《つ》まんと思はざる
恋の花にも戯《たはむ》るゝ
嫉妬《ねたみ》の蝶《ちょう》の身ぞつらき
二つの羽《はね》もをれ/\て
翼《つばさ》の色はあせにけり
人の命を春の夜の
夢といふこそうれしけれ
夢よりもいや/\深き
われに思ひのあるものを
梅の花さくころほひは
蓮《はす》さかばやと思ひわび
蓮の花さくころほひは
萩《はぎ》さかばやと思ふかな
待つまも早く秋は来《き》て
わが踏む道に萩さけど
濁《にご》りて待てる吾《わが》恋は
清き怨《うらみ》となりにけり
望郷
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寺をのがれいでたる僧のうたひ
しそのうた
[#ここで字下げ終わり]
いざさらば
これをこの世のわかれ
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