よなりけり
妹
こぞのこよひは
わがともの
そでのかすみの
はなむしろ
ひくやことのね
たかじほを
うつしあはせし
よなりけり
姉
わがみぎのてに
くらぶれば
やさしきなれが
たなごころ
ふるればいとゞ
やはらかに
もゆるかあつく
おもほゆる
妹
もゆるやいかに
こよひはと
とひたまふこそ
うれしけれ
しりたまはずや
うめがかに
わがうまれてし
はるのよを
二 蓮花舟《れんげぶね》
[#ここから4字下げ]
しは/\もこほるゝつゆははちすはの
うきはにのみもたまりけるかな
[#ここで字下げ終わり]
姉
あゝはすのはな
はすのはな
かげはみえけり
いけみづに
ひとつのふねに
さをさして
うきはをわけて
こぎいでん
妹
かぜもすゞしや
はがくれに
そこにもしろし
はすのはな
こゝにもあかき
はすばなの
みづしづかなる
いけのおも
姉
はすをやさしみ
はなをとり
そでなひたしそ
いけみづに
ひとめもはぢよ
はなかげに
なれが乳房《ちぶさ》の
あらはるゝ
妹
ふかくもすめる
いけみづの
葉にすれてゆく
みなれざを
なつぐもゆけば
かげみえて
はなよりはなを
わたるらし
姉
荷葉《はすは》にうたひ
ふねにのり
はなつみのする
なつのゆめ
はすのはなふね
さをとめて
なにをながむる
そのすがた
妹
なみしづかなる
はなかげに
きみのかたちの
うつるかな
きみのかたちと
なつばなと
いづれうるはし
いづれやさしき
三 葡萄《ぶどう》の樹《き》のかげ
[#ここから4字下げ]
はるあきにおもひみたれてわきかねつ
ときにつけつゝうつるこゝろは
[#ここで字下げ終わり]
妹
たのしからずや
はなやかに
あきはいりひの
てらすとき
たのしからずや
ぶだうばの
はごしにくもの
かよふとき
姉
やさしからずや
前へ
次へ
全27ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング