あり
きみがはかばに
さかきあり
くさはにつゆは
しげくして
おもからずやは
そのしるし
いつかねむりを
さめいでて
いつかへりこん
わがはゝよ
紅羅《あから》ひく子も
ますらをも
みなちりひぢと
なるものを
あゝさめたまふ
ことなかれ
あゝかへりくる
ことなかれ
はるははなさき
はなちりて
きみがはかばに
かゝるとも
なつはみだるゝ
ほたるびの
きみがはかばに
とべるとも
あきはさみしき
あきさめの
きみがはかばに
そゝぐとも
ふゆはましろに
ゆきじもの
きみがはかばに
こほるとも
とほきねむりの
ゆめまくら
おそるゝなかれ
わがはゝよ
合唱
一 暗香《あんこう》
[#ここから4字下げ]
はるのよはひかりはかりとおもひしを
しろきやうめのさかりなるらむ
[#ここで字下げ終わり]
姉
わかきいのちの
をしければ
やみにも春の
香《か》に酔はん
せめてこよひは
さほひめよ
はなさくかげに
うたへかし
妹
そらもゑへりや
はるのよは
ほしもかくれて
みえわかず
よめにもそれと
ほのしろく
みだれてにほふ
うめのはな
姉
はるのひかりの
こひしさに
かたちをかくす
うぐひすよ
はなさへしるき
はるのよの
やみをおそるゝ
ことなかれ
妹
うめをめぐりて
ゆくみづの
やみをながるゝ
せゝらぎや
ゆめもさそはぬ
香《か》なりせば
いづれかよるに
にほはまし
姉
こぞのこよひは
わがともの
うすこうばいの
そめごろも
ほかげにうつる
さかづきを
こひのみゑへる
よなりけり
妹
こぞのこよひは
わがともの
なみだをうつす
よのなごり
かげもかなしや
木下川《きねがは》に
うれひしづみし
よなりけり
姉
こぞのこよひは
わがともの
おもひははるの
よのゆめや
よをうきものに
いでたまふ
ひとめをつゝむ
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