分りません――それも陰影《かげ》になって。奥様の思いやつれた容姿《かおかたち》は、眉《まゆ》のさがり、目の物忘れをしたさまから、すこし首を傾《かし》げて、御頭《おつむり》を左の肩の上に乗せたまでも、よく見えました。御二人は燃えるような口唇《くちびる》と口唇とを押しあてて、接吻《くちづけ》とやらをなさるところ。奥様は乳房まで男の胸に押されているようで、足の親指に力を入れて、白足袋の爪先で立ち、手は力なさそうにだらりと垂れ、指はすこし屈《かが》め、肩も揚って、男の手を腋《わき》の下に挟んでおいでなさいました。手も、足も身体中の活動《はたらき》は一時に息《とま》って、一切の血は春の潮の湧立《わきた》つように朱唇《くちびる》の方へ流れ注いでいるかと思われるばかりでした。
 あまりのことに旦那様は物も仰《おっしゃ》らず、身動きもなさらず、唯もう御二人を後から眺めて、不動《じっと》其処へ棒立のまま――丁度、釘着《くぎづけ》にして了った人のように御成なさいました。
「最敬礼、最敬礼」
 と丘の上の式場で叫ぶ声は御部屋の内まで響きました。
 遽《にわか》に、表の格子《こうし》の開《あ》く音がして、

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