して、例の細い優しい手には小豆皮《あずきがわ》の手袋を着《は》めて参りました。急いで歩いて来たものと見え、暫らく土塀《どべい》の傍に立って息を吐きましたが、能く見れば目の縁も紅く泣|腫《は》れて、色白な顔が殊更《ことさら》いじらしく思われました。姿の美しい男は怒れば怒ったでよし、泣けば泣いたでよく見えるものです。情を含んだ目元は奥様に逢いたさで輝いて、何もその外のことは御存《ごぞんじ》ない様子が、反《かえ》っていたわしくも有ました。いつ見ても、悪《にく》めないのはこの人です。早く人目に懸らぬうちと、私は歯医者を勝手口から忍ばせて、木戸を閉めました。
「お定さん、今日は大層|賑《にぎやか》だね」
「まあ、人が出ましたじゃ御座ませんか」
「お前さん、どうしたの。なんだか蒼い顔してるね」
「御寒いからです」
「寒けりゃ女は蒼くなるものかね。私は今まで赤くなるとばかり思ってた。いいえ、戯言《じょうだん》じゃないよ。全くこう寒くちゃ遣切れない。手も何も凍《かじ》かんで了う。時に、あの何は――大将は……」
「旦那様ですか。もう最前《とっく》に御出掛《おでまし》に成りました。貴方、奥様は先刻《さっき
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