で、ぎらぎら輝きましたから、目も羞明《まぶ》しく痛い位、はっきり開《あ》いて見ることも出来ませんのでした。白く降埋《ふりうず》んだ往来には、人や馬の通る痕《あと》が一条《ひとすじ》赤く染《つ》いている――その泥交《どろまじ》りの雪道を、おつぎさんの凍った身体は藁蓆《むしろ》の上に載せられて、巡査|小吏《やくにん》なぞに取囲まれて、静に担がれて行きました。薦《こも》が被《か》けて有りましたから、死顔は見えません、濡乱れた黒髪ばかり顕れていたのです。
それは胸を打たれるような光景《さま》でした。同じ奉公の身ですもの、何の心も無しに見てはおられません。私はもう腹立しさも口惜しさも醒《さ》めて、寂しい悲しい気に成ました。娘盛《むすめざかり》に思いつめたおつぎさんこそ不運な人。女の身程悲しいものは有りません。変れば変る人の身の上です。僅《わず》か小一年ばかりの間に、おつぎさんのこの変りようはどうでしょう。おつぎさんばかりでは有りません。旦那様も変りました。奥様も変りました。定めし母親《おふくろ》も変りましたろう。妹や弟も変りましたろう。――私とてもその通り。
全く私も変りました。
道々私は
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