置いてある。
「でも、貴方だって、小諸言葉が知らずに口から出るようですよ。人と話をして被入《いら》っしゃるところを側から聞いてますと――『ようごわす』――だの――『めためた』だの――」
「お前もナカナカ隅へは置けなく成ったよ」
 二人とも鼻へ皺《しわ》を寄せて笑った。
「お前のお友達は、それで何て言ったネ」と高瀬は聞いた。
「旦那《だんな》さんが今洋行してますから、ちと高瀬さんにも遊びに被入《いら》しって下さいって」
「俺にか。旦那さんが居るから遊びに来いッてんなら解ってるが、旦那さんが留守だから遊びに来いは可笑《おか》しいじゃないか」
 復た二人は笑った。
 鞠子は大工さんの家の娘にも劣らないほど、いたずらに成った。北風が来れば、槲《かしわ》の葉が直《す》ぐ鳴るような調子で、
「畜生ッ。打《ぶ》つぞ」
 髪を振って、娘は遊び友達の方へ走って行った。



底本:「旧主人・芽生」新潮文庫、新潮社
   1969(昭和44)年2月15日初版発行
   1970(昭和45)年2月15日2刷
入力:紅邪鬼
校正:しず
2000年3月15日公開
2000年12月10日修正
青空文庫作成ファイル:
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