見やすと、御蔭で吾家《うち》でもいくらか広くいたしやした」
 こう内儀さんも働きながら言った。
 そのうちに学士の誂《あつら》えた銚子《ちょうし》がついて来た。建増した奥の部屋に小さなチャブ台を控えて、高瀬は学士とさしむかいに坐って見た。一口やるだけの物がそこへ並んだ。
 学士はこの家の子のことなどを親達に尋ねながら、手酌で始めた。
「高瀬君、まあ話して行って下さいナ。ここは心易い家でしてネ、それにお内儀さんがあの通り如才ないでしょう、つい前を通るとこんなことに成っちまうんです」
「私も小諸へ来ましてから、いくらかお酒が飲めるように成りました」
「でしょう。一体にこの辺の人は強酒《ごうしゅ》です。どうしても寒い国の故《せい》でしょうネ。これで塾では誰が強いか。正木さんも強いナ」
 高瀬は酒が欲しくないと言って唯話相手に成っていた。彼は学校通いの洋服のポケットから田舎風な皮の提げ煙草入を取出した。都会の方から来た頃から見ると、髪なども長く延ばし、憂鬱な眼付をして、好きな煙草を燻《ふか》し燻し学士の話に耳を傾けた。
「どうでしょう、高瀬君、今度塾へ御願いしました伜《せがれ》の奴は。あれで弟
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