せながら遊んでいた。そこいらには、首のちぎれた人形も投出してあった。私は炬燵にあたりながら、姉妹《きょうだい》の子供を眺めて、どうして自分の仕事を完成しよう、どうしてその間この子供等を養おう、と思った。
お房は――私の亡くなった母に肖《に》て――頬の紅い、快活な性質の娘であった。妙に私はこの総領の方が贔屓《ひいき》で、家内はまた二番目のお菊贔屓であった。丁度牧野君から子供へと言って貰《もら》って来た葡萄《ぶどう》ジャムの土産《みやげ》があった。それを家内が取出した。家内は、雛《ひな》でも養うように、二人の子供を前に置いて、そのジャムを嘗《な》めさせるやら、菓子|麺包《パン》につけて分けてくれるやらした。
私がどういう心の有様で居るか、何事《なんに》もそんなことは知らないから、お房は機嫌《きげん》よく私の傍へ来て、こんな歌を歌って聞かせた。
「兎、兎、そなたの耳は
どうしてそう長いぞ――
おらが母の、若い時の名物で、
笹の葉ッ子|嚥《の》んだれば
それで、耳が長いぞ」
これは家内が幼少《おさな》い時分に、南部地方から来た下女とやらに習った節で、それを自分の娘に教え
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