芽生
島崎藤村

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)麓《ふもと》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)菓子|麺包《パン》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)掻※[#「※」は「てへん+毟」、第4水準2−78−12、153−13]《かきむし》った。
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 浅間の麓《ふもと》へも春が近づいた。いよいよ私は住慣れた土地を離れて、山を下りることに決心した。
 七年の間、私は田舎《いなか》教師として小諸《こもろ》に留まって、山の生活を眺《なが》め暮した。私が通っていた学校は貧乏で、町や郡からの補助費にも限りがあったから、随《したが》って受ける俸給も少く、家を支《ささ》えるに骨が折れた。そのかわり、質素な、暮し好い土地で、月に僅《わず》かばかりの屋賃を払えば、粗末ながら五間の部屋と、広い台所と、大きな暗い物置部屋と、桜、躑躅《つつじ》、柿、李《すもも》、林檎《りんご》などの植えてある古い屋敷跡の庭を借りることが出来た。私はまた、裏の流れに近い畠《はたけ》の一部を仕切って借りて、
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