」
と言って、考え沈んだ姪の側には、叔父が腰掛けて、犬の鳴声を聞いていた。叔父は犬のように震えた。
「まだ叔父さんは起きていらしッて?」とそのうちにお俊が尋ねた。
「アア叔父さんに関《かま》わずサッサと休んどくれ」
と言われて、お俊は従姉妹の方へ行った。三吉は独りで自分の身体の戦慄《ふるえ》を見ていた。
翌朝《よくあさ》になると、復た三吉は同じようなことを二人の姪の前で言った。「叔父さんも心を入替えます」とか、「俺もこんな人間では無かった積りだ」とか、言った。
「どうしたと言うんだ――一体、俺はどうしたと言うんだ」
と彼は自分で自分に言って見て、前の晩もお俊と一緒に歩いたことを悔いた。
容易に三吉が精神《こころ》の動揺は静まらなかった。彼は井戸端へ出て、冷い水の中へ手足を突浸《つきひた》したり、乾いた髪を湿したりして来た。
「オイ、叔父さんの背中を打って見ておくれ」
こう言ったので、娘達は笑いながら叔父の背後《うしろ》へ廻った。
「どんなに強くても宜《よ》う御座んすか」とお俊が聞いた。
「可《い》いとも。お前達の力なら……背中の骨が折れても関わない」
「後で怒られても困る」
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