比べた。
「私は二十五に成ったら、叔父さんに自分の通過《とおりこ》して来たことを話しましょう。よく小説にいろいろなことが書いてあるけれど、自分の一生を考えると、あんなことは何でも無いわ。私の遭遇《であ》って来たことは、小説よりも、もっともっと種々《いろいろ》なことが有る」
「そんなら、今ここで承りましょう」と三吉は半分|串談《じょうだん》のように。
「いいえ」
「二十五に成って話すも、今話すも、同じことじゃないか」
「もっと心が動かないように成ったら、その時は話します……今はまだ、心が動いてて駄目よ」
しばらくお俊の話は途切れた。暗い、静かな往来の方では、農家の人達が団扇《うちわ》をバタバタ言わせる音がした。
「しかし、叔父さんが私を御覧なすッたら、さぞ馬鹿なことを言ってると御思いなさるでしょうねえ」
「どういたして」
「必《きっ》とそうよ」
「しかし」と三吉は姪の方を眺めながら、「お前がそんなオシャベリをする人だとは、今まで思わなかった――今夜、初めて知った」
「私はオシャベリよ――ねえ、延ちゃん」と言って、お俊はすこし羞《は》じらった顔を袖で掩《おお》うた。
両国《りょうご
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