ランプ》の光は、お鶴が白い単衣《ひとえ》だの、お俊が薄紅い帯だのに映った。
「鶴ちゃん、叔父さんに遊戯をしてお見せなさいよ」とお俊がすすめた。
「何にしましょう……」とお鶴は考えて、「もしもし亀よにしましょうか」
「浦島が好いわ」
 旧《ふる》い小泉の家――その頽廃《たいはい》と零落との中から、若草のように成長した娘達は、叔父に聞かせようとして一緒に唱歌を歌い出した。お鶴は編み下げた髪のリボンを直して、短い着物の皺《しわ》を延しながら起立《たちあが》った。姉や従姉妹《いとこ》が歌う種々な唱歌につれて、この娘は部屋の内を踊って遊んだ。
 三吉は縁側の方から眺《なが》めながら、
「ウマい、ウマい――何か、御褒美《ごほうび》を出さんけりゃ成るまい」
「鶴ちゃん、もう沢山よ」
 と姉に言われても、妹は遊戯に夢中に成った。一つや二つでは聞入れなかった。


 一晩泊ってお鶴は帰って行った。翌日から勝手の方では、若々しい笑声が絶えなかった。四五日降ったり晴れたりした後で、烈《はげ》しい朝日が射して来た。暑く成らないうちに、と思って、お俊は井戸端へ盥《たらい》を持出した。お延も手桶《ておけ》を提《さ
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