うなところへ行きたかった。翌朝《よくあさ》早く、彼は磯辺の温泉宿を指して発《た》って行った。
「あれ、叔父さんは最早《もう》帰って御出《おいで》たそうな」
とお延は入口の庭に立って言った。
お雪が生家《さと》の方で老祖母《おばあさん》の死去したという報知《しらせ》は、旅にある三吉を驚かした。二三日しか彼は磯辺に逗留《とうりゅう》しなかった。電報を受取ると直ぐ急いで家の方へ引返して来た。
「種ちゃん、父さんの御帰りだよ」とお雪も乳呑児を抱きながら、夫を迎えた。
「よく、こんなに早く帰られましたネ、皆な貴方のことを心配しましたよ」
「道理で、森彦さんからも見舞の電報を寄した。どうも変だと思った――俺は又、お前の方を案じていた」
ホッと溜息《ためいき》を吐《つ》いて三吉は老祖母の話に移った。
この老祖母の死は、今更のように名倉《なくら》の大きな家族のことを思わせた。別に竈《かまど》を持った孫娘だけでも二人ある。まだ修業中の孫から、多勢の曾孫《ひいまご》を加えたら、余程の人数に成る。お雪ばかりは、その中でも、遠く嫁《かたづ》いて来た方であるが、この葬式は是非とも見送りたかった。三吉
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