のよ』と言いながら、棺の周囲《まわり》を踊って歩きましたよ。そして、死んだ子供の側へ行って、噴飯《ふきだ》すんですもの」
「まあ」
「しかし、二人とも達者でいる時分には、よく繁ちゃんの御墓へ連れて行って、桑の実を摘《と》って遣《や》りましたッけ。繁ちゃんの桑の実だからッて教えて置いたもんですから、行くと――繁ちゃん桑の実|頂戴《ちょうだい》ッて断るんですよ。そうしちゃあ、二人で頂くんです……あの御墓の後方《うしろ》にある桑の樹は、背が高いでしょう。だもんですから、母さん摘って下さいッて言っちゃあ……」
「オイ、何か他の話にしようじゃないか」
 と三吉が遮《さえぎ》った。子供の話が出ると、必《きっ》と終《しまい》には三吉がこう言出した。
「種ちゃん」お延はアヤすように呼んだ。
「この子は又、どうしてこんなに弱いんでしょう」とお雪は種夫の顔を熟視《みまも》りながら言った。
 蹂躙《ふみにじ》られるような目付をして、三吉も種夫の方を見た。その時、夫婦は顔を見合せた。「ひょッとかすると、この児も?」この無言の恐怖が互の胸に伝わった。三人の娘達を見た目で弱い種夫を眺めると、十分な発育さえも気遣《
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