、再び橋本の家へ帰る心は、豊世には無いらしいとのことで有った。
三吉も、そう長く名古屋に逗留《とうりゅう》することは出来なかった。午後まで、皆なと一緒に正太の側に居た。甥の病勢もまだ旦夕《たんせき》に迫ったという程では無いらしいので、看護を人々に頼んで置いて、東京の方へ帰ることにした。
別れる時が来た。つと三吉は正太の枕許へ行った。
「正太さん。僕はこれで失敬します」
と言いながら、熱い汗ばんだ手を差出して、握手を求めた。
長いこと叔父甥は手を握り合っていた。やがて三吉が別れを告げて行こうとすると、正太は周章《あわ》てて叔父の解《ほど》いた手に取縋《とりすが》るようにして、
「僕も勇気を奮《ふる》い起して、是非もう一度叔父さんに御目に掛ります……」
と言いながら、堅く堅く叔父の手を握り〆《しめ》た。一度に込上げて来るような涙が正太の暗い顔を流れた。
「オオ、そうだとも……」
側に居たお種は吾児《わがこ》を励ますように言って、思わず両手で顔を掩《おお》うた。次の部屋には、幸作が坐って、頭を垂れていた。
長い廊下の突当りには消毒する場所があった。三吉はそこで自分の手をよく洗っ
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