首を振って、夫の衰え方は世間の人の思うようなものでは無い、と萎《しお》れながら打消した。
お雪も別れを惜んで、一晩豊世に泊るように、自分の家から名古屋へ発つように、と勧めた。「どうです。そうなすったら」と彼女が言った。豊世は、方角の好い旅舎《やどや》を択《えら》んで、老婆《ばあさん》と二人宿賃を出し合って、名残《なごり》に一夜泊ることを約束して置いて来たから、折角ではあるが、成るならその旅舎から送られて発ちたいと言った。多くの家具を腹の立つほど廉《やす》く売払っても、老婆の給料まで悉皆《すっかり》払って行くことは覚束《おぼつか》ない、いずれ名古屋から送る積りだ、とも言った。
「御勝手の道具で、売って幾何《いくら》にも成らないようなものは、皆なあの老婆《ばあ》やに遣《や》りましたよ」と豊世は附添えた。
お雪は別れの茶を汲《く》んで来た。豊世は直樹の家へも暇乞《いとまごい》に寄ったことを話した。種々な人の噂が出た。三吉は、正太がまだ若くて懇意にした人の中に、お春という娘のあったことなぞをめずらしく言出した。
「叔父さんはよくあんな人のことまで覚えていらっしゃいましたね。私がまだお嫁に来
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