出したところであった。このお雪が二番目の妹は、若々しい細君として、旦那という人と共に一寸上京したのである。下座敷の障子も明けひろげてあるところへ、丁度豊世が入って来た。
「豊世さんはお愛ちゃんを御存じでしたろう。好い細君に成って来ましたよ」
 こう言いながら、三吉は長火鉢の前に豊世を迎えた。お雪もその側に居て、お愛夫婦の噂をした。
 叔父叔母の顔を眺め、若い人達の噂を聞くにつけても、豊世は気が変って、途次《みちみち》考えて来たようなことは言出さなかった。いよいよ駒形の家を仕舞うに就《つ》いては、何か家具の中に望みの品はないか、どうせ古道具屋に見せて売払うのだから、とお雪に話した。「真実《ほんと》に惜しいと思いますわ……でも、どうすることも出来ません」とも言った。
「なんでしょうか、橋本の姉さんは正太さんの病気を知ったでしょうか――実際の病気を」と三吉が尋ねた。
「さあ……」と豊世も考深く、「手紙には何とも書いてありません……最早知ったでしょうよ……幸作さんが名古屋へ出て、宅に逢《あ》っていますから。森彦叔父さんだって、漸《ようや》くこの頃御知んなすった位ですわ」
「あの兄貴へは、私の方
前へ 次へ
全324ページ中302ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング