に出来ることで、放縦な夫の心を悦ばすようなことは、何でもした。それほど夫の心まかせに成ったのも、何卒《どうか》して夫の愛を一身に集めたいと思ったからで……夫の胸に巣くう可恐《おそろ》しい病毒、それが果して夫の言うように、精神の過労から発したのか、それとも夫が遊蕩《ゆうとう》の報酬《むくい》か、殆んど彼女には差別のつかないものに思われた。
 二月の末頃、正太は一度名古屋から上京したこともあった。その時は顔色も悪く、唯|瘠我慢《やせがまん》で押通しているような人であった。「旦那様は御自分じゃ、十年も生きるようなことを仰って被入《いら》っしゃいますが……どうして私の御見受申したところでは、二三年もむずかしゅう御座いますよ」と老婆は蔭で豊世に言った。二三日|逗留《とうりゅう》した正太の身体からは、毎晩のように、激しい、冷い寝汗が流れた。まるで生命の油が尽きて行くかのように。それを豊世は海綿で拭《ふ》き取ってやったことも有った。
 その時の夫の言葉を、彼女は思出した。
「看護婦さん、足でも撫《さす》っておくれ……」
 と夫は言ったが、それを玻璃障子のところで繰返してみた。彼女はまだ女の盛りである
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