るな、と言わなかったろう。家を出る位の思をしても……その苦痛《くるしみ》が何の役にも立たない……」
「いえ、叔父さん、そう阿爺《おやじ》の方から出てくれれば、まさかに赤い着物を着せるとも、誰も言いはしなかったろうと思います。ところが阿爺はそうじゃなかった。『俺にそれを着せてくれるな』と言出した……その時、もうこれは駄目だ、と私も思いました」
 こう二人は達雄のことを言って見たが、でも何となく頭が下った。目下のものが旧家の家長に対する尊敬の心は、是方《こちら》に道理があると思う場合でも、不思議に二人に附いて廻った。
 豊世が膳《ぜん》を運んで来た。正太は力の無い咳《せき》をして、叔父と一緒に笑いながら食った。三吉は姉の生涯をあわれに思うという話なぞをした後で、
「僕は、今度は、姉さんにも言った……莫迦《ばか》に怒られちゃった……」
「なにしろ、母親さんは、神聖にして犯す可《べか》らず――吾家《うち》じゃそう成っていましたからネ。しかし、叔父さん、小泉忠寛翁の風貌《ふうぼう》を伝えたものは――貴方の姉弟中で、吾家の母親さんが一番ですよ」
 正太はすべて可懐《なつか》しいという眼付をした。母
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