て来て言った。「なんですか、私も是方《こっち》へ来てから、また母親さんが一人|加《ふ》えたような気がしますわ」
階下《した》に住む婦人がナカナカのエラ者で、商売《あきない》の道にも明るく、養子の失敗を憂えていることなぞが、かわるがわる正太夫婦の口から出た。そのうちに、正太は、「お前はそっちへ行ってお出」と豊世に眼で言わせて、黙然《もくねん》と叔父の前に頭を垂れた。
「叔父さん、私もいよいよ洗礼を受けました」
こんなことを言出した。三吉は不思議そうに甥《おい》の顔を見た。
「実は――」と正太は沈痛な語気で、「熱田《あつた》へ遊びに参りましたら、その帰り道で洗礼を受けました――二度、喀血《かっけつ》しました」
「叔父さん」と正太は男らしい響のある調子に返った。「私もこれから大に遣ります。医者に診《み》て貰いましたところが、『お前の病気は自分で作った病気だ、精神の過労から出た病気だ、下手《へた》にクヨクヨするな、そのかわり三年や四年でマイって了うようなものじゃ無い、十年の生命《いのち》は引受けた』と言ってくれましたんです。『仕事を為ても構わんか』と聞いたら、『差支《さしつかえ》は無い
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