心で考えられませんか」
こんな風に、三吉の方でも半ば身を起して、言って見た。お種は直に話を別の方へ持って行った。興奮のあまり、彼女はよく語れなかった。
「でも、何でしょう。達雄さんだっても、まかり間違えば赤い着物を着なくちゃ成らなかったんでしょう」
「それサ……むむ、それサ……赤い着物を着せたくないばっかりに……」
「でしょう。その為に皆な苦心して、漸《ようや》く今日まで漕付《こぎつ》けた。正太さんのことなぞを考えて御覧なさい。ウッカリしていられるような時じゃありませんぜ」
「むむ、解った、解った。若いものを相手にするようなことじゃ、是方《こっち》が小さいで……」
「小さいも、大きいも無いサ」
「いや、解った」
話が次第に紛糾《こんがらか》った。終《しまい》には、一体何を話しているのか、両方で解らないように成った。
「畢竟《つまり》――姉さんはどうすれば可いと言うんですか」
「俺は正太の傍へでも行って、どんな苦労をしても可いから、親子一緒に暮したいよ」
こう話の結末をつけてみたが、何だか二人ともボンヤリした。
払暁《あけがた》まで、お種は碌《ろく》に眠られなかった。
夜が
前へ
次へ
全324ページ中282ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング