たか》って私を捕虜にして了った」
 愛慾の為に衰耄《すいもう》したような甥の姿が、ふとその時浮び上るように、三吉の眼に映じた。二人は両国の河蒸汽の出るところまで、一緒に歩いて、そこで正太の方は厩橋行に乗った。白いペンキ塗の客船が石炭を焚《た》く船に引かれて出て行くまで、三吉は鉄橋の畔に佇立《たたず》んでいた。


 笑って正太と話していた三吉も、甥が別れて行った後で、急に軽い眩暈《めまい》を覚えた。頭脳《あたま》の後部《うしろ》の方には、圧《お》しつけられるような痛みが残っていた。
 疲労に抵抗するという眼付をしながら、三吉は元来た道を神田川の川口へと取った。
 潮に乗って入って来る船は幾|艘《そう》となく橋の下の方へ通過ぎた。岸に近く碇泊《ていはく》する船もあった。しばらく三吉は考えを纏《まと》めようとして、逆に流れて行く水を眺めて立った。
「どうせ一生だ」
 と彼は思った。夫は夫、妻は妻、夫が妻をどうすることも出来ないし、妻も夫をどうすることも出来ない。この考えは、絶望に近いようなもので有った。
「ア――」
 長い溜息《ためいき》を吐《つ》いて、それから三吉はサッサと家の方へ帰って
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